2023年はアクセルスペース創業15周年となる節目の年です。そこで、未来に向けアクセルスペースをリードするメンバーのインタビュー記事を、8月から連載しています。第6回はAxelGlobe事業本部長の深澤 達彦です。宇宙と無縁の少年だった深澤の衛星ビジネスとの出会い、多様性あふれる組織で実現を目指す事業などについて話を聞きました。
プロフィール
深澤 達彦/AxelGlobe事業本部長
成城大学を卒業後、株式会社マクニカへ入社。営業部門、海外仕入部門にて管理職を歴任後、米国半導体スタートアップへ転身しAPAC地区責任者として経営に参画。代理店網のセットアップ、ビジネスの立ち上げをリードし、大手半導体メーカーによるバイアウトを主導。その後、海外光学衛星スタートアップの国内事業の立ち上げと組織開発・運営を管掌。2022年11月にアクセルスペースに参画。現在、株式会社アクセルスペース 取締役 AxelGlobe事業本部長
オリパラ組織委員会での経験がチャレンジの自信に
実家の天体望遠鏡も覗いたことがないくらいですから、私は宇宙少年ではありませんでした。大学時代は「モテそう(笑)」という理由からゴルフ部に所属。パーティのメンバーと会話をしながらプレイできるのがゴルフの良いところで、人との触れ合いを好む自分のスタイルのルーツはここにあると思っています。卒業後は、半導体の専門商社であるマクニカに就職し、国内向けに海外商品を販売する営業の仕事に約10年携わりました。宇宙との接点ができたのは、独立してハイテク系クライアントのビジネス立ち上げ支援などをしていた2009年頃です。海外の宇宙開発企業がアジア地域でのビジネス展開を進めており、その責任者を約6年担当し、その流れで知り合いの紹介からアクセルスペースと出会い、社外のパートナーとして海外における代理店網の構築などを2年弱支援しました。
その後は、「2020年オリンピック・パラリンピック東京大会」の組織委員会で、当時未経験だった広報の仕事にも携わりました。担当したのは、隊列が120日にわたり日本全国を移動する聖火リレーの大規模なプロジェクトで、目のくらむような忙しさでした。しかし自分が培ってきた経験を異業種に活かせた手応えは、新しい分野にチャレンジする自信に繋がりました。
オリパラがひと段落した頃に、アクセルスペースが人材を募集していると知り、中村を含む経営陣と再会しました。実はこの時、海外の宇宙開発企業からも新たなオファーを受けていました。それでもアクセルスペースを選び入社した理由は、エンジニアリングだけでなく、セールスやマーケティングも含めて、ビジネスの成長をしっかり考えている会社だと確認できたからです。「日本から海外に打って出たい」という気持ちが高まったことも決め手になりました。
肌身で感じるダイバーシティのあるべき姿
アクセルスペースにおけるダイバーシティは非常に進んでおり、「Axelspace Way」という会社の3つの指針は、組織づくりにも体現されていると感じます。私が管掌するAxelGlobe事業本部のメンバーは半数以上が外国籍で、国籍や年齢、業界的バックボーンも様々です。人工衛星の世界においての要素技術はある程度完成していて、それを社会で有効活用してもらうためにやるべきことがたくさんあります。衛星と関わりのなかった人たちとの出会いからビジネスやイノベーションの糸口を探り、合意形成していく。宇宙の専門家だけのチームでこれは実現できません。多様な経験とノウハウ、意見を持った仲間たちとの協力が不可欠なのです。
ダイバーシティ&インクルージョンを考える上で、自分が大切にしているのはインクルージョンです。もちろんその実現には苦労もあります。「なんでも言ってくれ」と伝えれば、メンバーたちから予想を遥かに超えるシビアな意見が寄せられることもあります。しかし、こうしたやり取りから逃げていては絶対に信頼関係をつくれませんし、戦力を失いかねません。だから、きっちりと向き合って対話をします。例えば「カレーとラーメンのどちらも正解だけど、ひとつしか選べない」といった場合なら、責任者として私が決断することもあります。もちろんそれは利己的なものであってはいけません。多様性を受け入れながらそれを束ね、チームの力としてアウトプットする。これは企業文化をつくる営みでもあると思いながら取り組んでいます。ダイバーシティのあるべき姿を肌身で感じられるのも、この会社の面白さのひとつです。
「AxelGlobe」の特徴と、「AxelLiner」との連携が生む真価
AxelGlobeは、衛星を活用した「光学地球観測データプラットフォームサービス」です。現在、光学衛星GRUS(グルース)5機を連携させた衛星コンステレーションを運用しており、地球上のあらゆる場所を高頻度で撮影できます。最大2.5mの分解能(地上の2.5mのものを識別できる能力)を持ち、東西方向に約55km、南北方向に約1000kmと、極めて広い範囲を一度に撮影できる点に特徴があります。
活用例をご紹介しましょう。GRUSが持つ複数の解析手法のひとつである「NDVI」は、植物の生育の活性度を可視化します。これを農作物の状況把握に用いれば、生育状況の良くない農地を検知し、ピンポイントで肥料や農薬の散布を行うといった、高精度で大規模な農業を実現できます。また、同一地点を繰り返し撮影することにより、雲のない地上画像を生成し、データの比較を通じた森林や海洋などの広域モニタリングも可能です。このように、衛星から得た画像、及び解析データをユーザーの要望に応じて、農業の生産性向上、環境保全、災害管理、都市計画などの様々な分野に役立てられるのです。
AxelGlobeは、AxelLinerと相互に連携することで真価を発揮します。AxelLinerは、アクセルスペースが持つ世界有数の技術とノウハウをベースに、衛星の開発や製造だけでなく、ユーザーが衛星で実現したい要件のフィージビリティスタディや、ユーザー機器の衛星への組み込み、打ち上げに必要な各種許諾の取得、打ち上げ後の運用など、衛星プロジェクトに必要なほぼ全ての支援をワンストップで提供する画期的ソリューションです。衛星そのものを扱うAxelLinerと、衛星データを扱うAxelGlobeをクイックに回すことで、ユーザー要件に対する柔軟な対応や、競争力のある価格を実現できる点は強みです。これにより、ユーザーが衛星を活用するハードルを、かつてないほどに下げられます。
最も重要な挑戦はシェア争奪戦ではない
今後、新たな社会インフラとしての人工衛星が、ビジネスで広く活用されていくことは間違いありません。かつての携帯電話やインターネットがそうであったように、この新しい技術の普及は人々に行動変容を促し、大きなビジネスチャンスを生むでしょう。
宇宙市場はコンペティティブで、アメリカを筆頭に多くのメガプレイヤーがいます。彼らは巨額の投資をして、ものすごい数の衛星を打ち上げている。しかし、最も重要な挑戦は、彼らとの競争ではなく市場の創出なのです。民間企業による衛星活用はまだ始まったばかりです。世界中がその活用法と新たな市場を模索している今だからこそ、規模の力による単純なシェア争奪戦とは異なる勝ち筋を見出すことができると考えています。もちろんすぐに答えが見つかるケースばかりではないと思います。それでも、私たちは衛星ビジネスのトップランナーとして、ユーザーの皆さまと一緒に考え、チャレンジし続けます。