本連載では、未来に向けてアクセルスペースをリードするメンバーをご紹介します。
第8回に登場するのは、代表取締役 CEOの中村 友哉です。急拡大する宇宙産業でのアクセルスペースの競争優位性や戦略、新たに宇宙に参入する企業とのパートナーシップのあり方などにについて話を聞きました。
▶️他のメンバーインタビュー記事はこちら
プロフィール
中村 友哉/代表取締役 CEO
2007年、東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻博士課程修了。在学中、世界初の大学生手作り超小型衛星「CubeSat(キューブサット)」を含む3機の超小型衛星の開発に携わる。卒業後、同専攻での特任研究員を経て2008年にアクセルスペースを設立、代表取締役に就任。2015年より内閣府宇宙政策委員会部会委員を歴任。2022年、第22回Japan Venture Awardsにて最高賞である経済産業大臣賞を受賞。現在、株式会社アクセルスペースホールディングス/株式会社アクセルスペース 代表取締役 CEO。
創業15年のビジネス環境と会社の変化
2008年の創業当初と比べると、世の中の宇宙ビジネスに対する見方は180度変わりました。当時は国内に宇宙ベンチャーなどほぼ存在せず、社会から見た私たちは言わば「変わり者の集団」でした。15年を経て、宇宙とビジネスはようやく切っても切り離せないものになったと感じます。
その間、会社としてはビジネスモデルをアップデートし続けてきました。Axelspace 1.0、つまり創業期の私たちの価値は、ニーズに合わせたフルカスタムの衛星をつくりお客様に提供することでした。これに対して2015年に始まったAxelspace 2.0では、お客様に衛星そのものではなく、衛星で取得したデータを提供していく方針を打ち出しました。衛星を所有するというリスクは我々自身が負うことにし、お客様にはリスクなく衛星データを使っていただくというビジネスへの転換です。さらに現在のAxelspace 3.0では、急増する需要に対応するため、衛星の設計標準化や量産化を実現するとともに、衛星プロジェクトに関するユーザエクスペリエンスを革新することで、より多くのお客様に宇宙の価値を届けていきたいと考えています。
宇宙産業におけるアクセルスペースと最新の取り組み
アクセルスペースでは、宇宙を使ってビジネスを行うために必要となる小型衛星ソリューションの提供を通じて、新しい社会インフラとエコシステムの構築を目指しています。
これを可能にするのは、起業以来10機の衛星をつくり、打ち上げ、運用する中で培ってきた技術とノウハウです。衛星コンステレーション※1を活用したソリューションを自社で展開している点も弊社の強みです。アップストリーム・ダウンストリーム※2両方の知見を生かした衛星データビジネスを自社で展開できる意味において、おそらく世界的に見てもアクセルスペースは極めてユニークな存在だと思います。
※1 複数の人工衛星を協調させてひとつのシステムとして動作させること
※2 ここでは衛星データビジネスのフェーズを以下の通りに分類しています
・アップストリーム:衛星の開発・製造からデータプラットフォームの提供まで
・ダウンストリーム:衛星データの解析からエンドユーザーへの提供まで
弊社では現在、自社で運用する衛星コンステレーションを活用した地球観測プラットフォーム「AxelGlobe」と、衛星プロジェクトのワンストップサービス「AxelLiner」を展開しています。
AxelGlobeでは新たに今年「撮影サブスクリプションサービス」をスタートしました。本ソリューションでは、主に報道分野のお客様に向けて弊社衛星の「撮影権」を提供します。お客様は、希望するエリアの地球観測から得た様々なファクトの調査・分析を通じて、より付加価値の高い報道を実現できます。画像の購入を前提としないため、手軽に利用できるのも特徴です。
また、宇宙産業が拡大する中で、宇宙向けのコンポーネント(部品や機器など)をつくるメーカーも急増しています。コンポーネントの実用化には軌道上実証が不可欠ですが、実証機会の不足が産業にとっての大きな課題となっています。AxelLinerでは現在、コンポーネントメーカー各社と協議しながら、この課題の解決に向けた取り組みを進めています。
衛星活用の現在・未来と「宇宙ふりかけ理論」
トレンドとしては、災害監視や国土管理など政府系寄りの伝統的な分野以外に、民間の報道や環境分野での衛星活用が増えています。ESG対応が企業にとって重要になりつつある中、グリーンウォッシュのような新たな課題の解決に向けた貢献は、会社として力を入れていきたい分野のひとつです。
今後、さらに多くの産業分野で衛星を活用いただく上で、新たに宇宙を利用されるお客様に向けて、私の「宇宙ふりかけ理論」を紹介させてください。ビジネスにおいて宇宙は「メインデッシュ」ではありません。「宇宙で何かやりたい」といったように宇宙そのものを目的化するよりも、メインであるお客様のビジネスをより効率的なものに変える、あるいは付加価値を高める「ふりかけ」として使っていただくのが宇宙への近道です。つまり衛星活用のテーマは、宇宙ではなくお客様のビジネスの中に存在するのだと考えています。
アクセルスペースの世界戦略
特に重視するのは新興国です。これからインフラがつくられていく中で、ありとあらゆる分野に宇宙の貢献できる余地があり、非常に大きなポテンシャルを感じます。大切なのは、単に製品を輸出するのではなく、私たちの衛星やデータビジネスに対する知見と強みを最大限に活用して、各国と一緒にソリューションをつくっていくことだと考えています。例えば、私たちの知見やデータを現地事業者による開発に生かしてもらうことは、その国の課題解決と宇宙産業の発展、私たちのソリューションの浸透に繋がります。
こうした「三方よし」のWin-Winな形が私たちの目指すグローバル展開です。
アクセルスペースの展望
会社が急成長する中で、さらなる責任と皆様からのますますの期待を感じています。しっかり成果を出しながら、今後も宇宙の価値を届けていきたいです。
弊社では「Space within Your Reach ~宇宙を普通の場所に~」をビジョンとして掲げています。衛星データの利用の敷居が下がり、より多くの方々が当たり前のように宇宙を使う時代になりつつある今だからこそ、できることがあります。今後は、業界ごとのニーズを満たす宇宙ソリューションをつくり世界市場で展開していくために、様々な産業分野のお客様とビジネス創出を目的としたパートナーシップを結んでいきたいと考えています。
ぜひ、未来に向けて新しいビジネスを一緒に作っていきましょう。